• 「穫」生産者のご紹介

山里の知恵が咲く。花にら

新品種の花にらを託されて




高知市から車で2時間ばかり、梼原町の奥座敷・大向地区は、貴重な花にらの産地です。訪ねるのは、部会長の芝家澄さん。JA津野山の中越和樹さんが案内してくださいました。

梼原で生産者の部会を作ったきっかけは、中土佐町久礼の育種家・田中一男さんから、「この新品種を県内の生産者で大切に守ってほしい」と、種子を無償で提供されたこと。それが県の種苗登録品種「マルイチポール」。田中さんが時間をかけて何千株から種を取って育てあげた成果なのです。従来品よりも中身が詰まっていて、空洞ができにくい品種。茎がしっかり太く、甘みが強いのも大きな特長です。県内では香南市の門田繁継さんも、田中さんから受け継いで栽培しています。

土づくりの職人だから


まだあまり知られていませんが、花にらは、葉ニラの花とは別の品種。こちらの「四万十の蕾」は現在、生産者が9名おり、出荷を始めて5年目です。芝さんのハウスは、四万十川第2源流の梼原川沿い、標高300mほどの静かな集落にあります。人家や田畑のおりなす美しい風景に、人の手がほどよく入った自然との調和を感じました。

もともとベテランの米ナス農家だった芝さん。ナスを植える前、ここはなんと、工事の残土場だったとのこと。自分の手で整地しました。「畝を作ったばかりの土は、ふかふかで、手を乗せると沈むくらい」だそう。中越さんいわく、「芝さんは土づくりにこだわり抜いている人。指導員の僕らも、栽培技術では教えられることが多いですよ」

指先で1本ずつ摘む蕾


(下)風にゆれる「四万十の蕾」。4~5月は、いっせいに蕾(トウ)が立ってにぎやかに。去年の3月に定植し、今年の春、収穫が終わってから切り詰めて株を休ませているところ。

収穫は、株から立ち上がってくる、蕾がついた花茎(いわゆるトウ)を、指先で1本ずつ折り取ります。根元に近い、指先で簡単にポキッと折れるところが収穫ライン。折れないものは、熱を通しても芯が残ります。花が咲く前の蕾だけが商品になり、咲いたらもう食べられません。若いトウは、やわらかくて新鮮な緑色をしています。

蕾がドンと出るのは、春。7月の下旬に出荷が始まり、11月末まで続きます。「1年365日見ているから、状態がわかる」と話す芝さんです。


左:花にらの湯引き オイスターソースがけ 右:花にらと豚バラ肉の生姜ソース

調理する際は、1分ほどゆでて冷水で締めるのが、ちょうどいい火の通り具合。ゆでるとシャクシャクしたみずみずしい食感が楽しめ、しっかり炒めると、よりいっそう甘みが出てきます。

日当たりを細やかに調整する技


芝さんは、マイナス5度になる冬場もハウスを加温しません。そこには、霜焼けを防ぐテクニックが。夜間いったん凍った植物の細胞が、朝日を浴びて急激に温まって壊れてしまうのが「霜焼け」です。このハウスは天窓を細やかに動かせて、じわじわと日照を調整できる仕組み。朝と夕方で違う日当たりにも対応します。中越さんも驚嘆する多芸なハウス。


新しい品目なので最初は登録農薬すらなくて、手探りでの栽培でした。最盛期を目前にして、アブラムシにやられて出荷がゼロになった苦い経験も。今は、納豆菌にも注目しているそう。納豆に黒砂糖を入れて培養していて、これがナメクジなどの防虫にいいとか。除草剤を一度も使っていないのもまた、こだわりです。


昔ながらの知恵、強し

入れる堆肥は、山草だけ。周りの河原や土手、段々畑の跡にたくさん生えているカヤなどを刈ったものです。だから決して邪魔な雑草ではなく、役に立つ植物資源。この堆肥はお金がかからず、2年もちます。1年目は草のやわらかい部分が、2年目は固い繊維の部分がじわじわと効くのです。「山の草には堆肥になる性質がある。他に何も入れなくていいよ」。

そして、山から薪を切り出し、炭窯で炭に焼きます。ハウスへ入れると排水がよく、加えて保水力が上がるそうです。水はもちろん、山の水。薬剤が効かない虫でも、時期に合った水やりだけで、発生を抑える力があります。

芝さんの農業を見せていただき、自給自足の知恵を伝え、生かしてゆく強さを教えられました。

【問い合わせ先】

JA津野山
〒785-0610
高知県高岡郡梼原町梼原1444-1
津野山農業協同組合
TEL0889-65-0111