• 「穫」生産者のご紹介

棚田の明日は、マコモタケから。

地域おこし協力隊員、棚田へ入る

秋空の下、サクッと小気味よい音を立てて、カマで切り取られたマコモタケ。切り口から水があふれ、こんなに吸い上げる力があるのだと驚かされます。刈った時はトウモロコシのような皮に包まれていますが、実はサトウキビにも似て、ほんのり甘い味がしました。

大石地区の棚田を借りてマコモタケを栽培しているのは、地域おこし協力隊として本山町役場へ赴任している、中井勇介さん。出身は三重県の伊勢志摩地域ですが、実は三重県には菰野町というマコモの名を付けた町があり、伊勢神宮へマコモタケのしめ縄を納めているそう。中井さんが本山町を希望して来たのは大学の教授の縁でしたが、マコモタケを生産しているのは、三重県魂なのかもしれません。


マコモタケの収穫をする中井勇介さん。収穫前に水田の水を切り、作業がしやすい状態にしています。

将来はまちづくりの仕事を


中井さんは本山へ来て3年目。仕事も農業も、初心者でした。移住当初、少し研修などをしてすぐマコモタケ栽培を始めたので、すでに3作目を収穫しています。最初はマコモタケに力を入れている三重県農業改良普及センターに教えてもらいました。棚田の耕作放棄地で栽培するために株分けしてもらい、30本から徐々に増やしたそうです。昨年は40kgの収穫でしたが、年々品質を上げ、サイズをそろえ、収量を増やすとともに、お米も作りたいと考えています。

地域おこし協力隊は、赴任して地域のキーマンに何人か知り会った後、すぐに仕事を探さねばなりません。大学院でまちづくりを学んだ中井さんには、将来、まちづくりで食べていきたいという夢がありました。

3年たてば、移住か起業の選択


通りがかった地区の人と、いつもの挨拶を交わします。

「顔を見て、がんばってねと言われたら、期待に応えたい。地域の人と顔の見える関係になったことが嬉しかった。しがみついても、ここにおらんといかんと思いました」。協力隊員は赴任して3年たてば、移住するか、起業するかを決めねばなりません。中井さんは農業以外にも、土佐あかうしの6次産業化を目指した研究会を、地元の若手生産者と立ち上げました。シーズンオフには、NPO法人「土佐の森・救援隊」で林業の修行をするなど、地域に根付いた活動の幅を広げる日々です。

マコモタケは高齢者にも適した棚田向けの品目で、先祖代々守ってきた土地の活用につながることや、生産規模・収益についても、農家にきちんと説明できるよう、記録を残しています。

今はいろんな人に食べてほしい

収穫は朝7時ごろから1時間ほど。朝ごはんは畑のマコモタケになることもしばしば。収穫したてはあっさりしていながら、バターのような濃厚さがあるそうです。生でも胃にもたれず、腹持ちがいいし、食物繊維も豊富。もとは中華食材ですが、天ぷらや炊き込みご飯にしてもおいしいとか。

現在は、華珍園へ季節の食材として出している他、直販所の本山さくら市で販売したり、小さいものは食品加工所でピクルスにしてもらったり。女性や子どもに受けがよいのは、あのほんのりとした甘さ、筋やアクのない肉質の優しさでしょうか。

ちなみに、黒穂菌がマコモに入って膨らむマコモタケ、入らなければ実ができて、アメリカのインディアンが主食にするワイルドライスになります。


(左)マコモタケの衣揚げ 三椒塩 (右)マコモタケと豚肉の煮込丼


収穫したマコモタケ。これからの課題は、葉っぱの活用方法を探すこと。編んだり、お茶にしたりもできる?

未来を見つめ、展望を胸に


どうです?別世界のような棚田パノラマを見ながら、思いっきりくつろいでみませんか。



棚田の美しい嶺北地域。大石地区にはこの春、地元女性たちのリクエストで中井さんや大工さんたちが作った展望所が登場しました。ただし、大石から見えるのは対岸の、天空米で有名な吉延の棚田。やがて吉延にも、大石が見える展望台ができました。自信の眺望です。学生時代に建築も学んだ中井さんらしく、建物もなかなかのできばえ。道端にあった木を、山師さんと一緒に伐って建材にしました。

この土地にいたい、自分が食べることだけでなく、地域の雇用に少しでも貢献したいと考えている中井さん。地元の大先輩に、「百姓はコメ作るだけでない、百の手仕事をするんじゃ」と言われたことを胸に、6次産業プランナーとしても未来を描いているところです。

【問い合わせ先】
高知県本山町政策企画課
地域おこし協力隊

中井 勇介
〒781-3692
長岡郡本山町本山504
TEL 0887-76-3916