VOL.15農業で食べていく。

南国市福船

株式会社南国スタイル

中村 文隆なかむら ふみたか さん

各地のJAが、農業の再生に乗り出しています。南国スタイルは、2012年4月に誕生した、JA南国市が出資する農業生産法人。広い平野部で、温暖な気候を生かした多品種の露地野菜などを作り始めました。地域の農業が「食べていける仕事」として元気を取り戻すために、若いスタッフが奮闘中!


地域の人と一緒に、農業を盛り上げたい


JA南国市から出向している中村文隆さんは、南国スタイルの立ち上げから中心となって活動しています。自分たちも栽培を手がけるのはもちろん、生産者に働きかけて露地野菜の栽培を進め、農作業の請け負いもしています。他にライスセンターや育苗センターなどの管理も行い、とにかく忙しい毎日。「ハウスは設備投資が大変ですが、露地野菜なら気候を生かして広げられる」と中村さん。

耕作放棄地を借りて栽培している野菜や果樹。【右写真】
ブルーベリーの収穫は一粒ずつ、手間は相当なもの。ケーキ店などから直接摘みに来てもらうことで収穫体験になり、お互いにメリットが。


華珍園も農作業にチャレンジ!


まるまると太った聖護院カブを収穫しました。初めてとは思えないほど、きれいなレタス。種をまく時期を遅くして、虫が来ないように。ひときわ整然と育った野菜は、小笠原さんたちがお手本用に作ったもの。

南国スタイルでは、露地野菜の栽培事業の一環として、共同菜園事業も行っており、華珍園もお借りして栽培させていただいています。白木谷のタケノコ生産者とのつながりで、南国市から紹介されました。高齢化などの事情で耕作放棄地になっている畑を借り受け、企業向けに貸して、栽培の指導も行う仕組みです。

栽培の指導を担当するのは、小笠原博嗣さん。畑を訪ねると、大きな聖護院カブや、きれいにちぢれたレタスが収穫時期を迎えていました。「厨房のスタッフ皆で時間を作って畑へ作業に行くのですが、皆本当に楽しそうなんですよ」と華珍園側。調理の仕事柄、野菜は見慣れていますが、自分たちで育てた野菜を収穫するのは、やはり格別の喜びです。


共同菜園は「農と食」の情報交換をする場


今のところ、飲食業を主体に貸し出していますが、ここは営利を求めない情報交換や消費者との交流の場。中村さんたちの思いは、「農と食の距離をもう一度、縮めたい。作ったものにプライドを持って、“おいしい”と売れるようになれれば」。農家の苦労は目に見えません。一年ごとに気候条件は変わり、それを長年の経験と技術で補います。

出荷されず廃棄される野菜もいっぱいあります。「プロの作る野菜のすごさも、体験を通して気づいてほしいなと」。大人、子ども、料理をする人にも、畑の中で一緒に、農業の価値を見出してもらい、食育や地産地消のことを勉強できたらと、考えています。いのちを育て、いのちをつなぐ職業である、農業のことを。


農作業に精を出す厨房のスタッフたち。仕事とはまた別のスイッチが入って、元気いっぱいです。

地産地消の給食に、露地野菜を使う


12月、廿枝地区でネギの収穫。現場での農業は初めてでしたが、板についてきました。きちんと原価計算もして、利益が出るようにしています。

まずは地元の声からニーズを調べました。南国市といえば、地産地消による食育教育の先進地です。市をあげて食育に力を入れ、小学校などでの自校炊飯に使うお米は100%地元産ですが、野菜はこれまで数%しかありませんでした。野菜をもっと調達したいという南国市に、JAも数年前から協力。南国スタイルができてから、オーダーをもらって南国市内のJA直販所から野菜を仕入れ、学校へ届ける事業を始めています。

これからは、施設内で給食を作る介護施設などの需要も見込んでいるそう。業務用はサイズや品種の統一、安定供給が必要。直販所の野菜で、どうそろえるかが課題です。南国スタイルが中に入ることで、直販所へも使う側のニーズを伝えていきます。

伝統ある野菜産地を守りながら


左から、南国スタイルの小笠原博嗣さん、中村文隆専務、後藤稔宏(としひろ)さん。

【問い合わせ先】
(株)南国スタイル
(JA南国市出資農業生産法人)
〒783-0036  南国市福船372
TEL 088-855-3179

多品種の露地栽培を広めるだけでなく、伝統の産地を守っていくことも仕事です。事務所のある福船地区は、南国市屈指の青ネギ産地で、現在100戸ほどの農家がありますが、昔はもっとありました。また、野田地区では漬け物用の大根生産が盛んで、竿に干す姿が冬の風物詩でしたが、高齢化で作れないという事態に。そこで県からの打診を受けた南国スタイルが、「よっし」と生産の継承に乗り出したのです。「大根すだれ」と呼ばれてきた冬場の大根干しが、こうして残り、漬け物の加工会社も喜んでくれました。売り先が決まっている栽培という安心もあります。

「成功事例をつくって、農業で食べていけるように、地域の農業を引っ張っていきたい」。