VOL.18山で農業、真夏のトマト。
本山町本山
(株)ウインドファミリー
吉永 誠人 さん
夏こそ食べたい、真っ赤なトマト!もともと夏野菜で、ほてった体をほどよく冷やしてくれるトマトですが、暑さの厳しい夏場は育てにくく、流通量が激減してしまいます。でもここに救いの手が。平野部より涼しい山岳地帯、嶺北・本山町から、吉永さんのおいしいトマトが届いています。
しっかり味の夏トマトと出会って
地元高知産のトマトを使った中華料理を、夏場もぜひ楽しんでいただきたいと思っていたところ、人づてに吉永誠人さんを紹介されました。吉永さんの作るトマトは、甘味とともにトラディショナルなコクのあるトマトらしさで、夏の冷たい料理との相性もぴったり。山といっても、どんな環境で育っているのでしょうか。ということで、暑い夏の朝、本山町にあるお山の農場を訪ねました。
まずは本山町の中心部にある会社の方へ。事務所や出荷場、加工場が一つになった手作り感も濃い建物に、「ずっと居りたい面白さや」とつぶやくスタッフも。実は吉永さん、パグ犬の大ファン。育てたトマトや野菜を使って愛犬のためのスローフードを商品化する事業も始めています。
棚田マウンテンビューも最高の農場
会社見学の後は、さっそく、3カ所ある圃場の一つ、大石地区へ案内していただきました。狭い道を、棚田集落の上へ上へと登っていきます。着いたのは、大石地区と吉延地区の美しい棚田が一望できる、標高550mの開墾地でした。ここのハウスで3,000本、山を越えた向こう側では9,000本という規模でトマトを育てています。これまで県外の大手量販店への出荷が中心でしたが、前々から地元にも出したいと思っていたそうです。
昨年、区長さんのお世話で仲介された耕作放棄地の薮、1.7haを開墾しました。トマトだけでなく、いろんな野菜があり果樹があり、将来的には動物もいるという総合農場を作る夢を持っている吉永さん。「山に住んで楽しく農業をやりたい、そのためのフィールドです」。
耕作放棄地は、「居抜きの店舗」
吉永さんは高知市の非農家出身です。山で農業をする魅力は、「人がやらないことをやりたいから」。栃木での農業修業時代、そして高知に帰ってからも、農業で食べていく大変さを聞かされました。「既存の農家と違うことをやらないと生き残っていけないなと。山の状況は平場より深刻。まわりに耕作放棄地が多いですが、耕作放棄地イコール、“居抜きの店舗”だと思っています。人が手放した土地をどう使うかです」。
最終的に、高知市から2時間圏の移住先を候補に絞り、ちょうど条件のそろっていた本山町に入植しました。「資金は少なくても、若かったし恐い物なしのところがあって、やるんならドンとやろうと」。そして14年目、今は5人の従業員さんと家族でがんばっています。
トマトの甘さとは?
収穫したトマトの糖度は変化しませんが、酸味は日数が経つと徐々に抜けていくので、結果として、甘さの方をより強く感じるようになるそうです。「医食同源といいますが、トマトは体を冷やす夏野菜。夏の方が栄養価も高いんですよ。うちのトマトの糖度は6~7度、標高が高いため熟すのに日数が掛かる分、甘くなります」。吉永さんのトマトは、いわゆるレギュラートマトとは差別化していますが、高知ではマーケットの半分以上が、甘さで勝負するフルーツトマトになっています。吉永さんが狙うのは、昔ながらのトマトの、いいものを好むお客さんのマーケット。しっかりとコクがあって甘すぎず、皮もやわらかくて、いろんな料理と合わせやすいトマトです。
浄化の場、山に暮らし続ける
「この場所の魅力は何と言っても水。わき水が決め手でした。夏は冷たく、冬は湯気が出るし、雨が降っても濁りません。農地はどこでもあるけど、きれいな水を確保するのは至難の業です。ここは水源地でもあります」。山で代々引き継いできた文化や伝統、お祭りごとも含めて、誰かが継いでいかなければならないと、積極的に関わっています。
ハウスの上段には新しい池が掘られているところでした。貯水池は大切な水源地を使わせてもらう地域の人たちとの約束でもあり、吉永さんの遊び場にもなる予定です。地に足を着けた農業人のまなざしで語ります。「IT農業は他の人にやってもらって、自分は五感を大事にした土着の百姓になる。山で人が住み続けることに、意味がある。それを示していきたい」。
【問い合わせ先】
農業生産法人
(株)ウインドファミリー
〒781-3601 長岡郡本山町本山526-4
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